FOOD

MEMU FOOD ADVENTURE(前編)

鹿を通して考える、いのちの尊さ

ふたりのハンターと考える
いのちと食のありかた。

“いのちの循環”を体感し、食について学ぶ体験型フードイベント

メムアースホテルの体験型フードイベント「MEMU FOOD ADVENTURE」が1月19日に開催された。第1回のテーマは北海道を代表するジビエのひとつで、メムアースホテルのある十勝地方の山野にも多く生息しているエゾジカである。世界中を旅しながら、食を軸としたテーマのもとで体験型のイベントを企画しているキュレーター・イタサカヨシエさんが、メムアースホテルのイベントに参画。

 

土地に根差した自然の恵みを見つめ直す、「資源再読」を行う第1回のリサーチャーとして、宮城県牡鹿半島の食猟師、小野寺望さんを招いた。「アントラークラフツ」という屋号で活動する小野寺さんは、ニホンジカやカモなどのジビエをシェフや飲食店に提供するだけでなく、ワイルドフォレジャーとして自然の姿を伝える活動に力を入れている。地元のナビゲーター役として、池田町の猟師で「EZO LEATHER WORKS」を主宰する長谷耕平さんを迎え、野生の生命を私たちの暮らしにつなぐ、ふたりの言葉をお聞きした。

上/MEMU FOOD ADVENTURE第1回のリサーチャーは「アントラークラフツ」の食猟師、小野寺望さん。
下/「EZO LEATHER WORKS」の長谷耕平さん。若い頃からマタギになる願望を持ち続け、池田町移住を機に猟銃の免許を取得。

ライフル銃を手にする小野寺さん。狩猟スタート時は散弾銃、10年経つと射程距離、精度、威力が格段に良いライフル銃の免許を取得できる。

野生動物の生命をつなぐ、「食」猟師という仕事。

狩猟歴22年になる小野寺さんにとって、北海道、特に道東は「シカ猟の聖地」だという。

 

「帯広をはじめ、厚岸や根室への猟の旅は、自分へのご褒美みたいなものなんです。20世紀のバブル経済華やかな頃、道東の石材業者が石巻を経由して仙台で営業したり、牡蠣の養殖業者が石巻・万石浦の稚貝を仕入れに来たりと、道東と石巻の経済的・人的交流が盛んになりました。そのうち石巻の猟師たちが道東を訪ねて狩猟を楽しむようになったのです。石巻で狩猟免許を取った私も、親しい人に連れられて道東に通ううちに、豊かな自然の中で、エゾジカをはじめとした生き物たちが、のびのびと生きる姿に魅了されていきました。牡鹿半島の有害獣駆除でシカを撃つ時とは異なり、ここではピュアに自然や生き物と向き合える時間を過ごせます。道東は私にとって猟の原点なんです」

 

現在石巻市の猟友会に所属している小野寺さん。自然の中で生き物の生命に触れる喜びを感じるために個人で猟を行う一方、猟友会では市と県からの依頼を受けて、週3回有害鳥獣捕獲(以下、有害獣駆除)に参加している。長谷さんも地元の猟友会に所属し、有害獣駆除に参加している。北海道でも本州でも、森林や農産物などへのシカによる食害は長年問題視されていて、その対策としてエゾジカやニホンジカのような「有害獣」を各自治体の猟友会に依頼して捕獲する対策が取られている。

 

銃で仕留めたシカすべてを食用にできるわけではない。弾が急所をそれて内蔵にあたったり、半矢*5になって逃げ惑ったあげくに絶命すれば、血が全身に回って食用としての利用価値がなくなることも多い。それでも資源として生かす方策が各地で模索されていて、解体処理施設や加工場が整備されている。ちなみに十勝地方では食肉としてだけでなく、缶詰やシャルキュトリなどに加工して販売している業者も多い。

ライフルの弾。獲物と獲物の背景の状況、弾道の角度などを瞬時に見極め、安全に仕留められるか判断できて初めて引き金を引く。仕留めるチャンスはまさに千載一遇。

小野寺さんは、2017年のリボーンアートフェスティバルで設立した牡鹿半島の小さな解体処理施設の運営を任され、主に料理人やシェフに自ら仕留めたホンシュウジカ(以下ニホンジカ)の肉を販売している。「食」猟師と名乗っているのは、野生動物の生命を、私たちの生命を育む食べものへと変換させる役割を常に意識しているから。一頭のシカの生命をライフル銃によって絶つ時も、ストレスがなるべく続かないよう急所で仕留める。解体する時も肉に臭みが残らないよう素早く衛生的に行う。すべては料理するシェフや料理人、そして生活者が、シカの生命を「料理」として再び生かし、美味しさへとつなげてもらいたいと考えているのだ。

 

上/「EZO LEATHER WORKS」のブーツはじめ革靴や革小物を当日紹介。デザインも加工も長谷さんが手掛けている。
下/「アントラークラフツ」のニホンジカの肉を使い、小野寺さんがプロデュースしたグリーンカレー「鹿curry」。ロゴマークは山伏の坂本大三郎さんデザイン。

長谷さんは狩猟歴4年目ながら、仕留めたエゾジカの革を自らなめし、日々の生活を豊かにする革靴や小物、家具などをつくり、エゾジカの生命を生かすことを日々模索している。ふたりが初対面なのに意気投合したのも、アイヌや北米大陸のネイティブアメリカン、そしてアラスカのイヌイットの狩猟文化への興味をはじめ、生命への向き合い方で通じるものがあったからだろう。

 

北海道と牡鹿半島では同じシカ猟でもさまざまな点で違いがある。北海道は個体が大きいエゾジカで、本州はニホンジカ。小野寺さんが、「エゾジカは木綿豆腐、ニホンジカは絹ごし豆腐」と評するように、肉質の肌理にもそれぞれの持ち味がある。風土の違いは猟のスタイルに影響する。例えば道東では見晴らしのよい平野を車で走りながらエゾシカを見つける流し猟がしやすいのに対し、牡鹿半島は平野が少なく、急峻な山林での猟になるため、猟犬を使った巻狩りが有害銃駆除では有効である。小野寺さんがアウウェーでの猟で大切にしているのは、その土地の自然をよく知ること。今回も安全に猟を行う先達となってくれる長谷さんは、欠かせない存在である。

流し猟をする小野寺さん。運転しながらも、目線はエゾジカのそれと重ねている。

自然と同化するエゾジカ猟

ゲストに振舞うエゾジカを仕留めるため、イベント前日、小野寺さんと長谷さんは隣の浦幌町で猟を行った。日の出に合わせて車を流し始めたふたり。酪農家の牧場を抜けて林道へ入ると、雪上や斜面の至る所にエゾジカの痕跡を目にすることができた。

 

「この辺りはシカの影が濃いね」
「蹄の方向から大人のシカと仔ジカが、群れで山の方に向かっていったようだ」
「そこの斜面見て。すごいワタリ(獣道)だ」
「あそこにツノこすり(オスジカが木の幹にツノを擦り付けた跡)がある」
「山の尾根で、ほら、シカが2頭餌を食べている。猟師は銃の弾の行く先が山肌など、確かな場所でなければ発砲しない。尾根にいると撃たれないこと知っているんだよね」

 

少し高揚したような口調に、車の座席に居ながらも、小野寺さんがしだいしだいにエゾジカの目そのもので自然を見ていることを感じる。

 

「相手を知らなければ猟はできない。エゾジカの痕跡に目を凝らし、いつ、どの餌場で栄養をとって、どこで休息しているか。そんな想像をぐるぐると巡らせるの」

 

エゾジカと同じ「目」を持ち、同じ感覚で自然を捉えようとする小野寺さんの言葉に、ふと動物神や植物神が主語となって語られる、アイヌの神謡を思い出す。人間の視点から離れて自然に同化する体験も、シカを追う醍醐味のひとつなのかもしれない。

上/山中の木立で見つけたエゾジカのツノコスリの痕跡。
下/シカの群れの足跡。

早朝車を走らせた地域ではエゾジカに出合えなかったため、昼前に浦幌町の海岸へと移動。小野寺さんと長谷さんが射手に、同行者2名が勢子8となって砂浜から丘の斜面を登り、熊笹が茂る木立の中を、30メートルから40メートル間隔で横一列に前進しながらシカを追い込む「人勢子の巻狩り」に作戦を変更する。

 

林を渡る風と笹を踏み締める音だけが響く。見えるか見えないかの人影を頼りに、知らない林の中を進むのは、晴天であってもかなり心細い。右端を進む小野寺さんの姿は、すでに木立の向こうに消えた。左端をゆく長谷さんの猟友会のオレンジ色のベストを見失わないように必死に歩く。足音は大きくないだろうか。息遣いはシカに気づかれていないだろうか。シカが飛び出てきたら追い立てる勢子がつとまるだろうか。

 

そのようなことを考えながら、反対側の斜面を降りきったところで一発の銃声が轟いた。
小野寺さんが1歳の牡鹿を仕留めたのだった。(後編につづく)

Profile

小野寺望

Nozomu Onodera

アントラークラフツ主宰、食猟師

1967年宮城県気仙沼市生まれ。宮城県石巻市在住。石巻猟友会に所属し、牡鹿半島でニホンジカの有害獣駆除を行いつつ、単独での忍び猟を行っている。「アントラークラフツ」という屋号の元、ニホンジカだけでなく、牡鹿半島の自然の恵みをリサーチし、シェフや飲食店関係者に食材として提供するだけでなく、その背景を伝えるために、自然を案内する体験型ツアーも行うワイルドフォレジャーでもある。2017年リボーンアート・フェスティバルが設立した、牡鹿半島の自然の恵みを伝えるためのニホンジカ解体処理施設の運営を担当。

Profile

長谷耕平

Kohei Hase

EZO LEATHER WORKS主宰

1985年東京生まれ。星野道男さんのエッセイをきっかけに、北米のネイティブアメリカンや北極圏のイヌイットの生活文化や自然で生きる知恵に傾倒。マタギ願望抱き続ける。沖縄で働いた後、群馬県・前橋でログハウス専門の大工の修業を積む。2016年北海道・池田町で有害鳥獣捕獲をしたエゾジカの活用事業に応募し、移住。同町で狩猟免許を取得し、エゾジカの革のなめしや加工技術を独学で習得。なめしは化学薬品を用いず、伝統的なオークバックタンニングで行う。エゾジカだけでなく、さまざまな天然皮革を用いたレザーアイテムや家具のデザイン・製作をする工房「EZO LEATHER WORKS」を主宰。羊の繁殖場だったDハウスを改造し、トレーラーハウスを入れた住まい兼仕事場で、パートナーとお子さんふたりと北国の生活を満喫中。

Photo_Naoki Wagatsuma
Text_Aya Ogawa

Previous
Next