CREATOR

FOCUS ON LOCALS

チーム ヤムヤムと十勝のつくり手たち

十勝・中札内村に暮らすチームヤムヤムが案内する
ローカルクリエイターの生活とその背景にあるストーリー。

中村大史(後編)

  • Location

    十勝・東京

  • Genre

    音楽家

生まれ育った十勝の音

子どもの頃に住んでいた家は、すぐ近くに線路が通っていた。十勝ならではの静まり返った空の下、遠くから近づいてくる電車の音。次第に大きくなって家の前を過ぎ、そしてどこまでも遠ざかっていく。

 

「東京でも線路沿いに住んでいるけど、その時のような線路の音は全然しないんです。十勝では、車のドアを勢いよく閉める音も、どこまでも響いて、返ってくるような感じがします」

 

アニーさんはここ数年、冬になると母校のリンクでスケートをしている。校庭に保護者や地域の人たちの手によりスケートリンクがつくられるのは、十勝ならではの風習だ。「不思議と今でも、スケートの夢は毎年見るんです。しかも冬に。いつも滑っている夢なんですけど、曲がりきれなくてカーブでふくらんじゃったり、仲間が滑っていい記録を出したのをうらやましいなって思っている夢だったりもします」

カチャーンカチャーンと、リンクの上にはスケートの固い音が響き渡る。「人がいないリンクだと、学校の建物に音が当たって跳ね返ってくるんです。氷の音だけじゃなくて、風の音とか、ゼイゼイと苦しい自分の息の音も聞こえて。それなのに周りは静かで、何も動いてないような気がして、すべての音が吸い込まれる感じがしていました」

 

大きな空、静かな冬、遠くまで響く音の余韻。以前、十勝を一緒に訪れたメンバーの言葉に気が付いた。「この風景の中で育ったからアニーくんの音楽があるんだね、って言われて。育った場所の音の響き、伸ばす音の長さとか、余韻とか、今でも演奏や曲づくりに影響しているんだなって」

 

十勝ならではの音の広がりと、風景の記憶。この土地の風土や人々に育まれてきた風景が、アニーさんの音感を育み、今でもそれは彼の音楽活動の軸となっているように思えた。

十勝に還元する

各地に演奏で訪れる中でも、アニーさんが初期の頃からやりたいと思っていたのが、故郷である十勝での演奏だった。「高校でスケート辞めて違う道に行くって話した時に、先生に言われた『アニーは十勝に還元できる人になってほしいな』っていう言葉がずっと頭に残っていて。十勝の人にもいろいろな音楽を知ってほしいし、連れてきたメンバーにも十勝のよさを知ってもらいたいと思って。各地でその土地の素敵なコミュニティに出会うことが多くなり、十勝でもそうしたコミュニティを持つ素敵な人たちと場をつくっていきたいなと思っていました」

 

十勝でのライブには毎回、アニーさんの家族や同級生、昔からの仲間もたくさん応援に駆けつけ、会場は小さくてもいつも賑わっていた。そんな中もっと多くの人に演奏を聞いてもらう機会をつくりたいと思い、アニーさんは自ら演奏の場をつくるイベントを企画した。それは僕らが初めて見に行った、煉瓦の建物のある中庭での屋外ライブだった。1回目は、2014年に行われた「John John Festival 初夏の古柏市」。2年目、3年目はtricolorとしてライブを行い、主催する古柏市は3回を重ねた。アーティストも出店の人も、大人も子どもも、馴染みの人も初めての人も、一緒にそのイベントの雰囲気をつくっていて、とても心地いい場だった。

 

「演奏見てねって、今僕が十勝の人に自信をもって声を掛けられるのは、メンバーそれぞれが、かっこいい、美しい、おもしろいと自分が思うものに真剣に向かいながら、それが一緒に合わさって、お互い気持ちよく演奏しているという、その姿を見てもらえると思っているから。音楽も旅も楽しみながら、こういう風に生きている人もいるんだなって思ってもらえれば」。アニーさんが音楽とともに運んでくるのは、自分の培った価値観や信頼、そして彼ら音楽家たちの生きる姿そのもの。それは十勝に暮らす人々にとって確かな出会いとなり、新しい世界への入り口にもなっている。

子どもの頃から弾いていたという、実家にあるピアノ。

響きに向き合う

「この頃、“響き”というものを自覚するようになって、自分の出している音がどんな響きで届くのか、音の持つ作用について考えています。響きはその人のマインドも表すし、響きにもいろんな意味があると思うから」。そう話すアニーさんは、最近ピアノの調律の学校に通い始めたという。自らの感覚を頼りに、専門性の高い技術を要する分野だ。「調律の仕事をしようというわけではないけど、純粋に音の響きというのを知りたいなと思って。調律について勉強する時に、自分にとっての響きというものにもっと集中していけるんじゃないかと」

 

バンドやセッションなど、人との演奏の中に生まれる楽しさを追求してきたアニーさんが、一方で純粋な一つの音の響きについて考えるということ。話を聞いていて、僕らはなんとなく、アニーさんがスケートに打ち込んでいた姿と、ピアノの調律をする姿が重なって見えたような気がした。

 

「響きって、たとえイメージする響きが体現できなくても、自分がその響きに意味を見出せるならいいんだと思います。バンドでも、たとえ自分がイメージするものと違くても、その瞬間生まれたものに愛着を持てたら、成功だと言えるんじゃないかなって」。

 

アニーさんが使う“響き”という言葉には、自分の発する音と、一緒に演奏をする人が奏でる音、それに、その場の光の色や風の音、木々や人々のざわめきまでもが含まれている。そこに見えているのは、いろいろな場で演奏し、その場所ならではの空気感を敏感に感じ取ってきたからこそ分かる、音楽がつくり出せる特別な風景なのではないだろうか。

人の輪をつくる音楽

アニーさんが旅をしながら届ける音楽は、各地のコミュニティにオープンで心地よい風を吹き入れ、さまざまな相互作用を生み出す。僕らが中札内村で主催している「育つ庭(そだつにわ)」も、そうした機会の一つであり、一緒にイベントの場をつくってもらっている。tricolorのライブ演奏があり、会場では芝生の上でピクニックしながら、ワークショップなど大人も子どもも自分の能力を活かしたコミュニケーションを楽しむ。その場のゆるやかな一体感をつくるために、アニーさんたちの音楽はなくてはならないものだと思っている。一緒に歌っても踊っても、走り回っていても、昼寝していてもいいよ、というような、それぞれの気分や個性を受け入れ、境界をつくらず、みんなの居場所を与えてくれる。彼らの音楽は人の輪をつくってくれる、そんな作用があると感じている。

 

「いい雰囲気のイベントって増えていて、そんなに深く考えずとも楽しめるんだけど、育つ庭はヤムヤムさんが、僕たちがこういう場をつくるのは、確かな目指したいものを一つ持っているからなんだっていうのを見せてくれて、素晴らしいなと思った。見晴らしのいい遠いところに、しっかりと投げてくれたなって」

 

各地のさまざまな場を訪れ、それぞれの主催者や人々の想いに共鳴しながら、その土地に寄り添い、自分たちの音楽を奏でる。音楽が人々の相互作用をもたらし、その場にしかない響きが生まれる、その尊さをアニーさんは知っている。人は音楽のある場に集まる。聞く人や演奏する場所が変わっても、彼が音楽を通して生み出す響きは、さまざまな形で人々とその土地をつなぐ役割を果たし、そこにしかない風景の一部となっていくことだろう。

 

前編はこちらからご覧いただけます→前編

 

Profile

中村大史

Nakamura Hirofumi

1985年、北海道生まれ。幼少期より親しんだピアノや、その後出会ったギター、ブズーキ、アコーディオン、マンドリン、バンジョー、ハープ等の楽器を用いて、演奏・作曲をする。tricolor, John John Festival, O’Jizo, momo椿* 等のケルト・アイルランド音楽バンドでの国内外の演奏活動、さまざまなライブサポートや録音参加、芝居・コンテンポラリーダンス・映像の音楽を担当する等、活動は多岐に渡る。2015年、食事と音楽をテーマにした「食堂・音楽室 アルマカン」を吉祥寺にオープン。2017年ギターによるソロアルバム「guitarscape」を制作。http://hirofuminakamura.com/

Profile

チーム ヤムヤム 

Team YumYum

山本 学 ・ 山本えり奈

旅をしながら十勝に暮らす、編集・デザインチーム。あいうえお表やカレンダー、イラストマップやパッケージラベルなど、日々の楽しさをデザインする作品を手掛けている。北海道新聞イラストエッセイ「ヤムヤム移住ごよみ」連載。十勝毎日新聞社カレンダー「とかちごよみ」製作。Hotel Nupka「旅のはじまりのビール」ネーミング&デザイン。NHK連続テレビ小説「なつぞら」公式コラム執筆。「夏至のピクニックパーティ-育つ庭-」主催。http://www.tyy.co.jp

INTERVIEW & TEXT : TEAM YUM YUM
PHOTO: NAOKI WAGATSUMA

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