CREATOR

FOCUS ON LOCALS

チーム ヤムヤムと十勝のつくり手たち

十勝・中札内村に暮らすチームヤムヤムが案内する
ローカルクリエイターの生活とその背景にあるストーリー。

安部郁乃(前編)

  • Location

    札幌市

  • Genre

    陶芸

「石ころ」のような存在感のある器

初めて手にした陶芸家、安部郁乃さんの器は、小さくてコロっとした、まるで石ころのようなコーヒーカップだった。表面は自然の石のような色合いながら、どこか優しい手触りを感じさせるのは、つくり手の持つ力だろう。素朴ながらも芯の通った、石ころのような存在感がそこにはあった。土の特性を最大限活かした郁乃さんの器から、土を使ったものづくりの本質を垣間見ることができるのではないか。そんな予感がして、いつかゆっくりお話を伺いたいと思っていたつくり手だった。

今回のインタビューを機会に、初めて札幌市郊外にある郁乃さんの自宅兼工房を訪ねた。迎え入れてくれた応接間で、まず目を引いたのは、観葉植物や飾り物に混じって、部屋のあちこちに置かれた器や土器。教科書でも目にしたことのある「火焔式土器」や、北海道で発見された「江別式土器」など、どれも郁乃さんが資料を元に復元したもの。

 

グリーンを彩る植物たちは、花屋を営むお母さんが手入れしているもの。アボリジニの絵やペンギンの掛け時計、灯台の置物など、壁に掛けられたたくさんの飾り物は、船乗りをしている弟さんが、外国の港で仕入れてくるお土産だそう。家族それぞれの生活とゆかりのあるもので構成された空間は、郁乃さんの作品の背景にある不思議なあたたかさを感じさせるものだった。

「足元の土を知り、自分で判断したい」

二階にある郁乃さんの作業場へ案内してもらった。さまざまな器や試作品、制作のための道具が並ぶ中、足元にあった水と土が混じったバケツに目が止まった。それはなんだか地底にあるマグマのような生命力を感じるものだった。

 

「このバケツは、余った粘土を全部混ぜているものです。残った土を混ぜて使ってみると、意外といい仕上がりになったりするんです」。量産陶器などの場合は通常、精製された真っ白い土が使われるが、郁乃さんが素材として仕入れるものの中には、自然の色や素材感が残る未精製の土も多い。

残った粘土も捨てずにとっておく。混ぜて使うと予想外の色が出ることも。

「土の色みたいなのにすごく興味があって。赤い土は名寄と蘭越のもので、岩見沢の土は、掘らせてもらえる場所を聞いて、自分で掘ってきています。普通、土は製土所から買うことが多いんですけど、それだとどういう性質でどんなところで採れるのか、土っていうものが果たしてなんなのか全く見えないのが気になって。一応焼けばこの色になるってわかっても、仕組みがわからないと気持ちが悪くて。足元の土を使って、どんな性質があるのかを知った上で、自分で判断したいんです」。

 

土の種類や配合、焼く時の温度などにより、焦げ茶や煉瓦色、黒に近いものなど、微妙な色合いの違いが出るという。最近試してみているのは、近所の川から集めた砂を混ぜて使うこと。自然状態の土のもつ雑味や、素朴な土の風合いが出せることに面白さを感じているという。自分で集めた砂や粘土を使うまでには、洗ったりふるいにかけたりと途方もない手間が必要になる。それでも郁乃さんの土への探究心は、その工程に一つ一つ向き合うことで満たされていく。

上/使う土によってどんな焼き上がりになるか、色の違いを見るために焼いた小さなサンプル。
下/近所の川底の砂を濾過したもの。粘土に混ぜて使うといい風合いが出るという。

「川の砂を粘土に混ぜ込んで焼くと、独特の粒の表情が出てくるんです。生っぽい存在、石みたいな存在感を出したい。そこに石がいます、みたいな。失敗も多いですね、めちゃくちゃ失敗してます。苦労があるからこそ、材料はかけがえのないものとなり、愛着を持てるようになります」。

「気づいたら、石を手にしてつくっていました」

石が好きで、幼い頃から石を集めていたという郁乃さん。「銭函にいい石を拾える河原があって、この前も拾いに行きました。石は、器づくりの道具としても重宝しています。陶芸では普通はあまり石を使わないのですが、石はすごく使いやすいんですよ」。

 

作業台となっている机の引き出しを開けると、数種類の石がごろごろと入っている。何気ない石に見えるが、郁乃さんにとってはそれぞれ二つとない、器づくりに欠かせない道具。紐状の粘土を平らにするときには長い石、器の内側を整えたいときは小さめの石と、道具として様々な石を使い分けている。マジックで「郁」と自分の印を付けたあるものや、他の人の名前が書かれた石もある。

「イベントに持っていく時に、わからなくならないよう名前を書いてあるんです。他の名前のものは、土器づくりの先輩から、使いやすいよと言って譲り受けたものです。輪積みをしていくときに、石で叩いていくと丁度いい厚さになっていきます」。

 

作業場に響く、ペタペタペタというリズミカルな音。土をこね、石で叩いている郁乃さんは、なんだかとても楽しそうな表情だった。「石で叩く音もいいんですよね。石を使うようになったきっかけは覚えていなくて、本能的にかな? 大学で始めた頃から石でバンバン叩いてつくってました」。

 

整形した器は、焼く前にヤスリをかけて表面をなめらかにする工程を経る。その磨く作業は、郁乃さんにとって一番好きな作業だという。

 

「すみません、夢中になっちゃって… 一度はじめると、いつまででも磨いていられて」。表面の手触りを感じながら、ゆっくりと円をかくように手を動かす郁乃さん。その姿を見て、そういえば、河原にある石も、水や風など自然の中で磨かれて今の姿となっているものだと気がついた。長い時を経て土が石へと変わっていく過程を、郁乃さんはこの机の上でたどっているのかもしれない。(後編に続く)

Profile

安部郁乃

Abe Ikuno

稚内市生まれ。北海道教育大学旭川校芸術文化過程美術コース工芸科卒業。岐阜県多治見市陶磁器意匠研究所修了。江別市にて陶芸教室や夜間高校の講師として勤務。2011年より陶芸作家として、札幌にて制作活動を始める。道内を中心に展示会やイベントに出展するほか、土器づくりと野焼きの講師として活動。土を使い、身近な自然を形にしている。 https://tutinokakera.jimdofree.com/

 

Profile

チーム ヤムヤム

Team YumYum

山本 学 ・ 山本えり奈

旅をしながら十勝に暮らす、編集・デザインチーム。あいうえお表やカレンダー、イラストマップやパッケージラベルなど、日々の楽しさをデザインする作品を手掛けている。北海道新聞イラストエッセイ「ヤムヤム移住ごよみ」連載。十勝毎日新聞社カレンダー「とかちごよみ」製作。Hotel Nupka「旅のはじまりのビール」ネーミング&デザイン。NHK連続テレビ小説「なつぞら」公式コラム執筆。「夏至のピクニックパーティ-育つ庭-」主催。
http://www.tyy.co.jp

 

INTERVIEW & TEXT : TEAM YUM YUM
PHOTO: NAOKI WAGATSUMA

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