CREATOR

FOCUS ON LOCALS

チーム ヤムヤムと十勝のつくり手たち

十勝・中札内村に暮らすチームヤムヤムが案内する
ローカルクリエイターの生活とその背景にあるストーリー。

kochia craft design
laboratory(後編)

  • Location

    旭川市

  • Genre

    作家・デザイナー

家具デザインを学び、デザイナー・作家として

荒木さんは神奈川県横浜市の出身。スノーボードが好きで、北海道へは高校生2年生の冬、ニセコに通ったのがはじまりだったという。「進学を考えたときに、関心のあったものづくりができて、スノーボードができるところがいいなと思って、旭川に来ました」。東海大学芸術工学部(旭川校)に入学し、家具や製品デザインを学んだ荒木さん。同大学院では、椅子の研究を行ったという。

 

「大学では、先生や愉快な仲間たちと朝まで呑み明かしながら各々のデザイン論を語り合ったり、工房で、ものづくりの楽しさを学んだりと、かけがえのない時と出会いに恵まれました」

 

大学院修了後は、京都のデザイン事務所に就職。茶懐石に触れる機会を通じて、食具や調理道具など、暮らしの道具への関心を深めたという荒木さん。その後、実際に手を動かす仕事をしたくなり、岐阜・飛騨高山の北欧家具をライセンス生産するファニチャーメーカーに転職。同社では木工の現場と設計や復刻などを担当した。再び旭川へ戻り、イタリア系ファニチャーブランドのファクトリーにて研究開発職として9年間働いたのち、2018年に退社。現在は「kochia craft design laboratory」として自身のアトリエにて家具や生活道具のデザインやオーダーメイドを中心に活動を行っている。

何かを作ることで、何かとつながる

そもそも、旭川近郊は良質な森林資源が豊富にあったことから、1890年ごろから木材の切り出し場として栄え、ナラ材を”OTARU OAK”としてヨーロッパに輸出してきた土地柄。旭川家具は、昭和50年代を過ぎると生活様式の変化に合わせて“箱もの(箪笥)”などの婚礼家具から“脚もの(椅子)”へ移り変わっていった経緯がある。

 

「旭川には、家具職人さんやクラフト作家さんが、たくさん居て。これまでを築かれた先輩方は応援してくれますし、ものづくりの喜びを共有できるこの土地に居て、携わらない理由が見当たらないのです。また、現在の場所にアトリエを構えたことがきっかけで、多くの仲間と出会うことができました。陣内雄氏やOutWoods足立氏など、フリーランスの林業家たちから森づくりの事を聞いたり、旭山ろくふぁーむの森で伐倒体験をさせてもらったり、分けてもらった丸太から生木の器を轢いたり。本当に学びの多い所です。ありがたいです」

 

そうした出会いと経験を経て、地元の木材の利用についても思慮を巡らすようになったという荒木さん。

 

「なにか、やりたいという人が自然と集まったり、素敵な人が周りにたくさんいて。実際に手を動かして何かを拵えることで、大切なことを思い出したり、何かとつながれたり、楽しいことばかりなんです。これからも様々な地域や物事と繋がる交流拠点になってくると思います」

また、現在は当麻町の地域おこし協力隊にも参加するなど、木を活用した教育活動のサポートや有機野菜市を企画するなど町外への発信も積極的に行っている。来年春には、自身の作品や生活道具、野菜などを販売する、小さなギャラリーショップをオープンする予定だ。

 

話をしていると、本棚からデザイン書や設計図の書かれた専門書、技能書など、いろいろな本を引っ張り出しては、「あっ、それもつながるなぁ……」と言いながら見せてくれる荒木さん。これまでの経験や学び、そして様々な人とのつながり。そうした数多くの叡智と人との出会いが、荒木さんのクリエイションの源泉なのだろう。

土地の暮らしから生まれる道具の美しさ

「岐阜の飛騨高山にいた頃に畑を借りたことがあって。先輩と何を植えようかって話しながら、とりあえず降り積もった落ち葉を足で払い始めたんですけど、全然片付かない。その時に畑の端に生えていた木の枯れ枝を蔓でまとめて手箒を作ったんです。そうしたら、簡単に落ち葉を払うことができて。道具の持つ力というか、ものづくりの起源を感じました」

 

そんな荒木さんが目指すのは、この土地に生きる人々が、力を合わせて作り上げたギャンブレル屋根のように、その土地ならでは暮らしから生まれる道具。つくりやすさと使いやすさを追求するだけでなく、気候や植生といった環境と深く関わりながら、必然性を大切にしたデザインを心がけている。

「ヨーロッパやアメリカの大衆椅子も農具から派生して生まれたとも考えられます。簡素さは製作工程の均一化であり、限られた材料を工夫しながら使うことで、その土地でしか作れない必然のカタチに行き着いている。また、装飾の少ない形状は、清潔さを保ちます、綺麗が美しさとともに語られる所以ですよね。そんな”シェーカー家具”のような用の美を体現した生活道具が好きなんです」

 

“シェーカー家具”とは、19世紀頃、アメリカ・ニューイングランドで発展したキリスト教団体・シェーカー教徒が、自給自足に近い生活を送るなかで生み出した家具のこと。シンプルで実用的なデザインに宿る洗練された美しさは、後世の家具デザインに影響を与えたことでも知られている。荒木さんが「メムアースホテル」のために製作した「Dear SHAKER BENCH」や「Low Chair」といった、作品には、”Dear(拝啓)”とあり、実はそんな先人へのオマージュが込められている。

「メムアースホテル」の客室メーム。囲炉裏の周りには、荒木さんの座椅子「Low Chair」が並ぶ。

「シェーカー家具は、イギリスのウィンザーチェアなどが簡素になったカントリー家具(民具)です、アメリカに移り開拓を行い農地を広げ自給自足に近い暮らしから生まれました。ウィンザーチェアと同様に、背もたれをスポークにすることで少ない材料からもつくることができたり、座や笠木に施す穴の形状が丸穴でよいため、均一な加工が可能であったことから、スポークバックが用いられたと考えられます。

 

今回、ホテル家具ということで、座り心地を不特定多数の方向けに設定すること難しく、若干の公共性を加えています。たとえば、このベンチの背は、板などの面構成ではなく、ハイバックの細いスポークを用いることで、ほんの少しだけ撓みが生まれ、様々な体型の方にも馴染むことができ、柔らかく感じることができる、圧迫感が軽減され抜け感があって…などなど、機能と意匠を調整し、この『メムアースホテル』の風土から得た印象を具現化したデザインになりました。

 

『メムアースホテル』のカンファレンス棟がギャンブレル屋根の元厩舎であり、欧米から北海道に伝来した大規模農法や有畜農業と十勝に広がる麦畑、どこまでも続く海岸線。 この実験的な建築群のように、これまでの概念を一旦、取り払い再解釈と編集を行うような取り組みでした。どこか、これからの北海道家具のデザインとは?と問われているようにも感じ、ものづくりの本質に向き合う貴重な機会になりました」

ほうき木のように、暮らしとともにあること

アトリエでひとしきり話を聞いたあと、荒木さんが毎日犬を連れて散歩をするという工房の裏手に広がる森を案内してくれた。母方の祖父が秋田でマタギをしていたこともあり、子供の頃、夏休みや冬休みには、田舎の森でよく遊んでいたという荒木さん。そう言えば、アトリエの名前である「kochia craft design laboratory」の“kochia(コキア)”とは、どういう意味なのだろう?

 

「“kochia”とは、箒木の別名なんです。母の実家、秋田の郷土食でもある“とんぶり”は、そのコキアの実なんですよね。畑のキャビアとも言われています、茎は箒にしたりと、余すことなく使う感じがいいなぁと思って、この名前にしました。それに、僕の髪型にも似ているでしょ(笑)。だから、いつか箒も作りたいと思ってるんです。

座っているときより、こうしてアトリエで動いているときのほうが、アイデアが浮かぶことが多いです。たとえば、空目のように見間違えることがきっかけになっていて、霧の中にあって木漏れ陽があたり陰影がはっきりしてきて、目を凝らしていくような感覚です。きっと、書き留めたり、描いていったりしていくのだと思いますが、僕には、ものづくりでした。アイディアをかたちにできるアトリエの存在は大きな意味を秘めています。また、一定量を生産する場合にはデザイン手法を用いています。やはり、心が動くのは、手を動かしているときですよね、ものづくりって、楽しくて嬉しいことなんです」

 

「つくり手」として、暮らしの道具をデザインし、自らの手で製作を行う「kochia craft design laboratory」。地域の自然と文化を重ねながら、その土地ならではの暮らしにあったデザインを日々生み出していく。ものづくりの本質に真摯に向き合うその姿は、ギャンブレル屋根のアトリエにしっくりと馴染んでいた。

Profile

コキア クラフトデザインラボラトリィ

kochia craft design laboratory

荒木孝文

北海道東海大学大学院 芸術学研究科 修了。中尾紀行教授、織田憲嗣名誉教授に師事し、家具デザインの研究を行う。京都や岐阜での経験を経て旭川に戻り、ファニチャーブランドのソファ開発や設計に従事。2018年に独立。家具や生活道具のデザインと製作、モデラーとして造形を行いながら、ものづくりの研究に励む。現在は東旭川の元・馬小屋だったギャンブレル屋根の納屋をアトリエに、オーダーメイド家具の製作を中心に活動している。
http://www.kochia-craft-design-laboratory.com

 

Profile

チーム ヤムヤム

Team YumYum

山本 学 ・ 山本えり奈

旅をしながら十勝に暮らす、編集・デザインチーム。あいうえお表やカレンダー、イラストマップやパッケージラベルなど、日々の楽しさをデザインする作品を手掛けている。北海道新聞イラストエッセイ「ヤムヤム移住ごよみ」連載。十勝毎日新聞社カレンダー「とかちごよみ」製作。Hotel Nupka「旅のはじまりのビール」ネーミング&デザイン。NHK連続テレビ小説「なつぞら」公式コラム執筆。「夏至のピクニックパーティ-育つ庭-」主催。
http://www.tyy.co.jp

INTERVIEW & TEXT : TEAM YUM YUM
PHOTO: NAOKI WAGATSUMA / NORIO KIDERA

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