CREATOR

FOCUS ON LOCALS

チーム ヤムヤムと十勝のつくり手たち

十勝・中札内村に暮らすチームヤムヤムが案内する
ローカルクリエイターの生活とその背景にあるストーリー。

kochia craft design
laboratory(前編)

  • Location

    旭川市

  • Genre

    作家・デザイナー

腰折れ屋根のアトリエを訪ねて

十勝から車を走らせ北へ。大雪山系の山並みを越え、目指すは木工の町として知られる旭川市。今回は、「MEMU EARTH HOTEL」のスタジオや各棟客室の家具を手がける「kochia craft design laboratory(コキア クラフトデザインラボラトリー)」の荒木孝文さんの元を訪ねた。

 

「座ってみてください、座り心地がとてもいいんですよ」。「MEMU EARTH HOTEL」のスタッフに勧められ、スタジオにある「Dear SHAKER BENCH」に座ったときの感触は、今でもよく覚えている。3人ほど並んで座れる平らな座面と、スピンドルが並んだ特徴的な背もたれ。無垢のメープル材を使ったベンチは、洗練されたデザインの中に気取りのない素朴さを感じさせた。

 

東旭川にある荒木さんのアトリエを訪れたのは、9月の終わり頃のこと。黄金色の稲穂が実る田園の中に、赤い屋根の建物が点在するのどかな風景は、畑作中心の十勝とは異なる文化圏に来たことを私たちに感じさせた。そんな風景の中に佇む、水色の屋根の古い納屋が荒木さんのアトリエだ。

「この納屋は、もともと馬を飼育していた厩舎でした。“ギャンブレル屋根”といって、イギリスなどのヨーロッパから18世紀にアメリカに伝承された建築で、北海道には1900年代初めに伝わったそうです」。

 

北海道では“腰折れ屋根”とも呼ばれる“ギャンブレル屋根”。勾配が二段階に折れた独特の形態がその特徴だ。荒木さんがこの建物に出会ったのは、今から約5年前のこと。旭川に工場があるファニチャーブランドで研究開発や設計に携わってきた荒木さん。自身の手で、ものづくりの研究をしたいと、少しずつ集めていた機材を置く場所を探していた時のことだった。

 

「このギャンブレルの屋根裏を見た瞬間に、ここをアトリエにしたいと思いました。厩舎であった壁をぶち抜いて、機械を入れて、ようやく、ものづくりを始められるようになってきました。畑もあるので、ご近所の農家さんから教えてもらいながら、家庭菜園も楽しんでいます。僕たちの暮らしに興味を持ってくれた方々が自然と訪ねてきてくれる、不思議な所なんです。この北海道らしい納屋をきっかけに、開拓史を学び始めるようにもなりました」。

 

ギャンブレル屋根の納屋からは、北海道に伝来したアメリカ式の大規模農法やデンマークや北ドイツの有畜農業の取り組みが行われた経緯を伺い知ることができると荒木さんは話す。この土地に生きる人々が、力を合わせて作り上げたギャンブレル屋根。この屋根に一目惚れした荒木さんは、「kochia craft design laboratory」としての活動をこの場所からスタートさせることを決めたのだった。

自分に合う椅子を探したくなる
 

アトリエの一階は工房になっていて、木工機械や、椅子張りを行う工業用ミシンなど、家具製作のための道具が揃っている。はしごをかけて、二階へと上ると、窓から日の光が差し込み、明るい穏やかな空気が流れているのを感じる。

 

屋根裏には柱も梁もなく、天井に組み上げられた無数の垂木が、広々した空間をつくっている。二階には木材や生地などの材料が保管され、その中には近所の農家さんから譲り受けたという自家製の木のカヌーも置かれていた。十数脚ある年代物の木の椅子は、荒木さんのコレクションの一部だ。

 

「デンマークやスウェーデン、イギリスの大衆椅子のデザインが好きなんです。大学生の時に、教授の椅子のコレクション1000脚以上を全部並べてみるという伝説の企画展があって、搬入や展示の準備を手伝ったことがあったんです。お気に入りの椅子に触れるチャンスですから、まぁ、みんなで、こっそりと、座りまくりますよね(笑)」。

 

大学では椅子の研究家として著名な東海大学名誉教授織田憲嗣氏や中尾紀行教授に師事。ミッドセンチュリーのモダンファニチャーや北欧を中心としたヨーロッパの家具と、戦後の日本の家具デザインを学んだという荒木さん。同大学院の卒業製作では、日本の生活様式に合った畳の上でも使いやすいラウンジチェアをデザインし製作するなど、暮らしの中の家具の形について研究を行っていたという。

 

「とにかく椅子が好きです。伝承され続ける知恵や工夫が網羅されている生活の道具。ステキな椅子を見つけると、衝動的に座ってみたいと思ってしまいます。自分に合う椅子を探したくなってしまう」。

「MEMU EARTH HOTEL」の中でアイコニックな存在感を放つ「Dear SHAKER BENCH」の試作品。独特なラインを描く脚の形状も美しい。

十勝の風景にインスピレーションを受けて

「『MEMU EARTH HOTEL』の家具をつくることになったのは、実はこのギャンブレル屋根のアトリエがきっかけだったんです」と荒木さん。この屋根が十勝との縁をつないでくれたのだという。

 

「東川町の『Less Higashikawa』の浜辺さんから、いまからちょっと来れる?と、呼んでもらったのがきっかけで、『MEMU EARTH HOTEL』のプロジェクトに参加されているブランディングディレクターの福田春美さんと再会したんです。

 

福田さんは、以前お会いしていたことを覚えていてくださっていて、作品やアトリエの写真を見てもらいました。その後、福田さんがアトリエにいらしてくれて。『MEMU EARTH HOTEL』のカンファレンス棟もギャンブレル屋根であることから、話はすぐさま北海道開拓史の談義に。

 

こうしたいくつかのきっかけが交わり、家具製作のご依頼を頂きました。製作にあたってまず考えたのは、ホテルのコンセプトに合う家具のカタチ。思い浮かんだのは、自分たちで森を切り拓いて、生活道具を作るようなイメージ。実用的な中に美しさのある家具を作ることを目指しました」。

「MEMU EARTH HOTEL」のスタジオや宿泊棟であるホライゾン、バーンハウスに設えられている「Dear SHAKER BENCH」のデザイン画。

また、「Dear SHAKER BENCH」の脚に施された独特のカットは、荒木さんが以前から製作していた、カッティングボードのカタチに由来しているという。

 

「このカッティングボードは、立て掛けた時の接地面を少なくすることで空気が通るので、洗ったあとに乾きやすく、手入れしやすいようなデザインにしています。椅子の脚も点で支えるので、このカタチを取り入れてみたら、気持ちの良い椅子になっていきました。機能性が意匠になり、風土に合ったカタチが自然と生まれました」。

 

『MEMU EARTH HOTEL』の家具製作は、デザイナーとして家具図面を描き、作家として製作を行った。その過程では、プレッシャーで眠れない日もあったという。さまざまな葛藤と紆余曲折を経て誕生した「Dear SHAKER BENCH」。この椅子は、これまでの荒木さんの経験や十勝から彼が受けたインスピレーションを内包しているように思えた。(後編に続く)

Profile

コキア クラフトデザインラボラトリィ

kochia craft design laboratory

荒木孝文

北海道東海大学大学院 芸術学研究科 修了。中尾紀行教授、織田憲嗣名誉教授に師事し、家具デザインの研究を行う。京都や岐阜での経験を経て旭川に戻り、ファニチャーブランドのソファ開発や設計に従事。2018年に独立。家具や生活道具のデザインと製作、モデラーとして造形を行いながら、ものづくりの研究に励む。現在は東旭川の元・馬小屋だったギャンブレル屋根の納屋をアトリエに、オーダーメイド家具の製作を中心に活動している。
http://www.kochia-craft-design-laboratory.com

Profile

チーム ヤムヤム

Team YumYum

山本 学 ・ 山本えり奈

旅をしながら十勝に暮らす、編集・デザインチーム。あいうえお表やカレンダー、イラストマップやパッケージラベルなど、日々の楽しさをデザインする作品を手掛けている。北海道新聞イラストエッセイ「ヤムヤム移住ごよみ」連載。十勝毎日新聞社カレンダー「とかちごよみ」製作。Hotel Nupka「旅のはじまりのビール」ネーミング&デザイン。NHK連続テレビ小説「なつぞら」公式コラム執筆。「夏至のピクニックパーティ-育つ庭-」主催。
http://www.tyy.co.jp

INTERVIEW & TEXT : TEAM YUM YUM
PHOTO: NAOKI WAGATSUMA

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