CREATOR

FOCUS ON LOCALS

チーム ヤムヤムと十勝のつくり手たち

十勝・中札内村に暮らすチームヤムヤムが案内する
ローカルクリエイターの生活とその背景にあるストーリー。

toi(後編)

  • Location

    音更町

  • Genre

    パン・コンフィチュール

早朝3時半からのパン作り

翌日、改めてパン作りを見せてもらうため、再び「toi」を訪ねた。訪れたのは、宙生さんが仕込みをはじめる早朝3時半。あたりはまだ真っ暗で、森に動物の気配を感じる。窯に火を入れるのは、午前4時。次々とくべられる薪がパチパチと勢いよくはぜていく。次第に轟々と音をたてながら燃える薪窯。このまま窯の温度が上がるまで、約3時間も燃やし続けるのだという。

 

窯が温まる間、前日に仕込み寝かせておいた生地を取り出し、味と匂いで発酵具合を確かめながらの成形作業。一方で製粉機を回し、明日使うの分の生地を製粉したての全粒粉を配合しながら、休むことなく手際よく仕込んでいく。「粉のフレッシュさ、酸化していない状態で食べてほしいので、製粉してすぐに仕込みをするようにしています」。

パンが焼ける温度まで窯が温まったのは、午前7時頃。生地を型から取り出し、ナイフで切り込みを手早く入れながら、次々と窯の中へ入れていく。焼き時間は、大きなパンで45分、小さなパンで20分。次第に作業場全体がパンの焼けるいい香りに包まれていく。仕上げにコンコンとパンの裏を叩いて、焼き加減を確かめていく宙生さん。その日のパンが焼き終わったのは、時計の針が8時半を回った頃だった。

朝10時半、コーヒータイムで手を止めて

8時半頃、貴子さんが店に出勤。家の仕事を済ませ、子どもたちを学校と保育園に送り出してからの開店準備。掃除、パンの陳列、サンドイッチづくりなど、その日の準備に取りかかる。作業場では宙生さんが明日のパンの仕込みを続けている。

「お互い別々の作業をしているときには、声を掛けないようにしているんです。それぞれ集中していてリズムがあるから」。

 

ようやくふたりの時間が重なるのは、朝10時半のコーヒータイム。早朝からのパンの仕込み作業が一段落した頃、宙生さんはコーヒーを淹れはじめる。「2杯分のコーヒーを入れ、どちらかが座ったら、お互い手を止めて席につくようにしています。ふたり揃ってリセットする時間は持ちたいと思っていて、コーヒーを飲んで一息するようにしています。この時間がなかったら、一日のリズムが狂うなぁと」。

 

焼き上がったパンの味見をしたり、いただきものの野菜をつまんだりしながら、店のことやこどもたちの様子などを話しあう夫婦ふたりだけの時間。それは、一日の仕事の大事な区切りであり、お互いの考えをすり合わせる上でも大切なひとときのようだ。

果実畑を、10年かけてつくる
 

店の開店は、午前11時。棚にパンを並べ、お客を迎える準備を始める。接客を主に担当するのは貴子さんだ。そんな貴子さんのもうひとつの大切な仕事が、コンフィチュールづくり。この日の材料はハスカップ。先日、帯広の知人の畑で摘んできたものだ。砂糖をまぶして一昼夜置いたハスカップを染み出した水分だけで、ジャムボールと呼ばれるフランス製の銅鍋でじっくりと煮込んでいく。

 

「きれいでしょ。見てると幸せになりますよね」。隣のコンロでは、ガラス容器の消毒を行う蒸し器が湯気を上げている。ちなみに和歌山の生まれだという貴子さん。CM制作会社やDTPの仕事に就いた後、食に携わりたいという強い思いから、大阪のパン屋のカフェで働き、コンフィチュールの専門店でも経験を積んだそうだ。

「和歌山は果物の産地で、果物はたくさん手に入るけれど、生のまま食べることが多いんです。フランスに行ったときに、保存食としてジャムを大量に作っているのを見て、それが冬の食生活を豊かにしてくれるんだなぁと思ったんです」。

 

材料は北海道産のものを中心に、ベリーやルバーブなど、季節に合わせて旬の素材を使っている。「農産物はその時々で味が違うし、採れた場所でも変わってくるんです。材料はできるだけ顔の見える人から分けてもらうようにしています」。冬には、和歌山や本州から送ってもらった柑橘類で作るコンフィチュールも登場する。果実味の残るサラサラとした貴子さんが作るコンフィチュールは、パンだけでなくヨーグルトやチーズとの相性も抜群だ。

 

今年、店の敷地にある畑にブルーベリー、ハスカップ、カシス、ルバーブ、木苺の苗を植えた貴子さん。これから10年かけて、果実畑をつくる計画だ。「自分たちで育てたベリーを使って、コンフィチュールを作りたいんです」。未来を見据えて、今ここでできることを積み重ねていく。「こうありたい」と思い描く力が、ふたりの店づくりの大きな原動力だ。

「toi」がこの場所でパンを焼く理由

取材の終わり際、「これから、どんなパンを作りたいですか?」と宙生さんに投げかけたところ、こんな答えが返ってきた。

 

「作りたいパンはないんです。小麦も土地に合ったものが自然と育つように、パンも自然と土地の形になっていくと思うんです。チーズにしても、その土地の草を食べた牛のミルクを使うからその土地の味になる。パンも同じだと思うんです。小麦もパン種も、ここにあるものでつくることで、その土地に根ざした味になっていく。小麦の品種を使い分けるのも、自然と合うものがあればいいという感覚なんです」。

 

自分がつくりたい味を求めるのではなく、風土に寄り添うことで自然と形づくられていく味。土地の人々の暮らしに自然と溶け込んでいくパンを作るのが、宙生さんの理想とする店の姿だ。

「店を始める前、ここには離農した農家の廃屋が残っていて、実は荒れ放題だったんです。草木を刈り、小屋を解体して片付ける作業をしていたら、近所の人や知り合いが自然と手伝いに来てくれて。ご近所の農家さんはトラクターで店のまわりを整地して、駐車場まで作ってくれました。『こんなにしてもらって、何もお礼ができなくて申し訳ない』と伝えたら、『お礼はこの場所でお店を続けることだけで十分だよ。恩は自分に返すんじゃなくて、次にここに誰かが来たときに、助けてあげたらいい』と言ってくれて。本当にみんなに助けてもらいました。日本だけど、ここは異国のような場所。生きていくにあたって大事なことが、たくさん残っている場所だと思います」。

 

店をはじめて、9ヶ月。この場所には、人だけでなく鳥や動物も集まる。時にはシマリスが窓から店の中を覗きにくることだってある。「『こんな静かな場所で寂しくないですか?』とよく聞かれますが、鳥が鳴いたり、リスが遊びに来たり。都会の孤独と違って、ひとりで店番していてもちっとも寂しくないんです。『すんませーん、ここでお商売させてもらって』という感じです」と貴子さんは笑う。

 

森があり、畑があり、小麦があり、そして支えてくれる大切な人たちがそばにいる。自然や土地の人々と寄り添いながらパンを焼く彼らの姿を見て、私たちはこの土地の豊かさのかたちに改めて気づいた。

Profile

トイ

toi

中西宙生・中西貴子

2015年「風土火水」のパン職人として関西より移住。その後独立し、2019年音更町の小麦畑のある丘に「toi」をオープン。自然栽培・有機栽培小麦のみを自家製粉し、自家製のパン種と薪窯を使ってビオのパンを焼く。旬の果実を使ったコンフィチュールを作る。

 

営業時間:
夏季11:00~17:00
冬季11:00~16:00
定休日:月曜日・火曜日、その他不定休

北海道河東郡音更町字上然別北6線23-4
tel 0155-32-9177  fax 0155-32-9178

 

https://www.toi-naturel.com

 

 

Profile

チーム ヤムヤム

Team YumYum

山本 学 ・ 山本えり奈

旅をしながら十勝に暮らす、編集・デザインチーム。あいうえお表やカレンダー、イラストマップやパッケージラベルなど、日々の楽しさをデザインする作品を手掛けている。北海道新聞にイラストエッセイ「ヤムヤム移住ごよみ」を連載。十勝毎日新聞社カレンダー「とかちごよみ」製作。Hotel Nupka「旅のはじまりのビール」ネーミング&デザイン。NHK連続テレビ小説「なつぞら」公式コラム執筆など。「夏至のピクニックパーティ-育つ庭-」主催。

 

www.tyy.co.jp

NTERVIEW & TEXT : TEAM YUM YUM
PHOTO: NAOKI WAGATSUMA

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