CREATOR

FOCUS ON LOCALS

チーム ヤムヤムと十勝のつくり手たち

十勝・中札内村に暮らすチームヤムヤムが案内する
ローカルクリエイターの生活とその背景にあるストーリー。

toi(前編)

  • Location

    音更町

  • Genre

    パン・コンフィチュール

小麦畑の見える丘でパンを焼く

十勝・音更町の郊外、畑に囲まれた丘に建つパン屋「toi(トイ)」。2019年1月のオープン以来すでに多くのファンを獲得。日々訪れる常連さんや、遠方から買いに来るお客さんも後をたたない。私たちも訪れる前から、友人から話を聞いたり、手土産にパンをもらったりと、その存在だけは常に身近に感じていた。

 

「小さく切ってビールのおつまみにすると、つけもの感覚で止まらなくなりますよ」と、「toi」のパンをお裾分けしてくれたのは、前回紹介させてもらった鹿追町の「page」のふたりだった。満を持しての初訪問。お互い初めて会ったばかりだというのに、「ついに会えましたね」と、再会を喜ぶようなうれしい顔合わせとなった。

 

「toi」を営むのは、中西宙生(ひろお)さん・貴子(たかこ)さん夫妻。2014年に関西より移住し、帯広「風土火水」でパン職人として働いたのち、2019年1月に音更町郊外に店をオープンさせた。その特徴は自然栽培・有機栽培の小麦を自家製粉したパン。黒いパン、茶色いパン、白いパンなど、種類により生地に配合する全粒粉の配合を変え、自家製パン種を使い分けながら薪釜で焼いている。

 

製粉したての小麦本来の味わいを引き出したパンは、旨味とほのかな酸味があり、噛めば噛むほど味わい深い。まるでヨーロッパの古い童話に出てくるパンのような、素朴ながらもパンの本質を凝縮したような存在感も魅力的だ。

「窯も休ませる日が必要なんです」

「toi」を訪れたのは、お店の定休日。月曜日と火曜日は店を閉め、薪窯の火を落とすと決めている。「窯も休ませる日が必要なんです」と、宙生さん。火を落として2日目だという窯の中は、まだほんのりと温かい。週に5日パンを焼き、2日は窯を休ませる、その一週間のサイクルが、中西夫妻の暮らしのリズムだ。

 

ちなみに薪窯は、宙生さんが2か月をかけて自作したもの。他の店の薪窯を参考にイメージを膨らませながら物件を探し、店の場所が決まると建物より先に窯づくりに取り掛かった。窯があればパンを焼ける。パンを焼ければ、店を始められる。オープン時には、まだ建物が完成せずビニールシートを張った箇所もあったというが、窯の完成に合わせて、店のオープンに踏み切った。

 

「開店までの準備は、とにかくプレッシャーばかりでした。冬にオープンだったので、毎日氷点下で、足がしもやけになるほど寒かったです。窯の前で暖まりながら店を開けました」。話をしている合間にも、厨房でタイマーが鳴る。「夫はいつも何かに呼ばれてるんです」と貴子さん。

 

宙生さんが手にとったのは、培養中のパン種。匂いと手触りで発酵の具合を確かめていく。「toi」が使うパン種は3種類。小麦種、ワインの絞りかすを使ったブドウ種、そして近所に自生しているホップを使ったホップ種。イースト菌を使わず、自然界にある菌を使う自家製パン種は、生地を膨らますためだけでなく、パンの味にも大きく影響する。それは、「toi」のパンづくりには欠かせないものだ。

 

小麦がつないだ北海道との縁

宙生さんは兵庫県生まれ。神戸の大手老舗パン店「DONQ」でパンづくりの経験を積んだのち、35歳の頃、本場のパン作りを学ぶべくドイツ・フランスへ3ヶ月の研修へ。食事としてのパンを大事にする文化、生活の一部としてパン作りをする職人の姿など、パンの歴史と本場のパン作りを肌で感じたという。研修から戻り、関西で店を開く物件を探していた時に、北海道の小麦と出会った。十勝で有機栽培の小麦を扱い、オーガニックの取り組みを進める「アグリシステム」が帯広にオープンさせる直営店のパン職人として、宙生さんに声をかけたのだ。

 

それは、全粒粉やオーガニックの素材を使い、自然に寄り添うパンを提供するというコンセプトの店。うれしい誘いだったが、十勝はふたりにとって縁もゆかりもない土地。何度も返事を躊躇したというが、「この小麦を使ってパンを焼いてみたい」と思い、北海道に渡ることを決意したのだという。

 

そんな風にして、宙生さんが起ち上げから関わった帯広の「風土火水(ふうどかすい)」は、対面販売を取り入れた、これまでにないオーガニックのパン専門店として瞬く間に評判を呼ぶ店となった。盛況だった店をよそに2年の契約期間が終了したら、一時は関西に戻ることも考えていたという宙生さん。しかし、十勝でパンを焼くうちに次第にその心境に変化が訪れたのだという。

 

「パン職人として、小麦のない場所で店をやっていくことは考えられなくなってしまったんです」。こうして、十勝に残ることを選択したふたり。自分たちの思い描くパンづくりが、十勝ならできるかもしれない。そんな希望を抱き、ふたりは十勝に店を出すことを決めたのだった。

想いのある生産者がまわりにいる、ということ

「toi」が全粒粉として使う小麦は、店の隣にある「中川農場」の畑で採れたもの。小麦の産地である十勝でも希少な自然栽培・有機栽培で生産されているものだ。昨年、宙生さんは、中川さんの畑で農作業も体験した。

 

「無肥料・無農薬だから、その土地に合った種が自然と育っていく。小麦のあるべき自然の姿を実感しました。梅雨が長くて心配したり、作物ができるかどうかを気にかけたり。農家さんと同じ気持ちにもなれました」。今年は店の前の畑に、自分で小麦を蒔いて育てた。「小麦畑の見えるところでパンを焼きたいんです」。それは、宙生さんの素材に対する並々ならぬ思いの表れだ。

 

小麦だけではなく、良質のものをつくる「つくり手」がまわりにいること。卵も牛乳もチーズも、宙生さんが信頼を寄せる素材が、ここ十勝にはあった。「まわりに生産者がいるってことは、当たり前ではないんです。本州にいたら、それは感じられないことでした。みなさんが力を貸してくれて、ここに可能性があると思ったから、ここでパン屋を開くことにしたんです」。

食べ物として想いを伝える、対面販売

「toi」では、カウンターを挟みお客さんと話しながら商品を渡す、対面販売を行なっている。ひとつひとつ説明しながら買ってもらうのが、ふたりの目指す店のカタチだ。味やおすすめの食べ方についてはもちろん、小麦や卵など使っている素材についても聞かれることも多い。

 

「ものではなく食べ物として、その材料を作っている人の想いを、きちんとお客さんにつなげることも自分たちの役目だと思っています」。

 

パンとその背景にある想いを伝え、生産者とお客さんを結ぶこと。それがパンを焼く自分たちの役割だとふたりは話す。気がつけば、お客さんと一時間近く話し込んでしまうこともあるという。「パンの話だけでなく、いつの間にかお客さんの悩み相談になっていることもあるんです(笑)。それも対面販売の良さだと思います」。

 

後編につづく

 

Profile

トイ

toi

中西宙生・中西貴子

2015年「風土火水」のパン職人として関西より移住。その後独立し、2019年音更町の小麦畑のある丘に「toi」をオープン。自然栽培・有機栽培小麦のみを自家製粉し、自家製のパン種と薪窯を使ってビオのパンを焼く。旬の果実を使ったコンフィチュールを作る。

 

営業時間:
夏季11:00~17:00
冬季11:00~16:00
定休日:月曜日・火曜日、その他不定休

北海道河東郡音更町字上然別北6線23-4
tel 0155-32-9177  fax 0155-32-9178

 

https://www.toi-naturel.com

 

 

Profile

チーム ヤムヤム

Team YumYum

山本 学 ・ 山本えり奈

旅をしながら十勝に暮らす、編集・デザインチーム。あいうえお表やカレンダー、イラストマップやパッケージラベルなど、日々の楽しさをデザインする作品を手掛けている。北海道新聞にイラストエッセイ「ヤムヤム移住ごよみ」を連載。十勝毎日新聞社カレンダー「とかちごよみ」製作。Hotel Nupka「旅のはじまりのビール」ネーミング&デザイン。NHK連続テレビ小説「なつぞら」公式コラム執筆など。「夏至のピクニックパーティ-育つ庭-」主催。

 

www.tyy.co.jp

NTERVIEW & TEXT : TEAM YUM YUM
PHOTO: NAOKI WAGATSUMA

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