CREATOR

FOCUS ON LOCALS

チーム ヤムヤムと十勝のつくり手たち

十勝・中札内村に暮らすチームヤムヤムが案内する
ローカルクリエイターの生活とその背景にあるストーリー。

page(前編)

  • Location

    鹿追町

  • Genre

    木彫・指輪制作

木と向き合い、この土地の自然や文化と向き合う

「page(ペイジ)」の工房を訪ねるのは何度目だろうか。3月の十勝の風はまだ冷たく、鹿追町の山間にある工房は真冬の様相をとどめていた。外壁に古い牛舎の木材を使った工房は、ずっとその場所にあったかのような佇まいだ。

 

「page(ペイジ)」として活動する木工作家の高野夕輝さん・高野佳子さん夫妻。長男の峰くんは5歳、長女の桃子ちゃんは1歳。この日も訪れた私たちを皆んなで揃って出迎えてくれた。僕らにとって「page(ペイジ)」のふたりは、街角で偶然出会う確率が格段に高い人たちだ。ふとした日に出会い、気がつくと近況報告に花が咲く。

 

特に印象に残っているのは、数年前、鹿追の道の駅でばったり出会ってピクニックをした時のこと。ちょうどシートを敷いたところに誘ったら、彼らもちょうどよくお弁当を持っていた。銀色の二段の弁当箱に、野菜のおかずと五穀米。「いただきます」と自然に手を合わせて、一口一口丁寧に食べる仕草がとても印象的だった。いつも目を輝かせて話をするふたりの表情が、毎回の出会いを必然へと変えてくれるのだった。

 

関西から十勝・鹿追町に移り住んで7年。木と向き合い、土地の自然や文化と向き合いながら、彼らはどんな「つくり手」であろうとしているのだろうか。

十勝への移住。4年の歳月をかけた工房づくり

ふたりが十勝に移住したのは、2012年3月のこと。当時住んでいた関西から、生活道具を一式をフェリーに積み込み、まだ雪のある北海道に上陸。鹿追町の町営住宅に住みながら、まず工房となる場所を探した。

 

ちなみに、北海道生まれの夕輝さん。子どもの頃は、教員であった父親とともに、羅臼、十勝、倶知安、札幌など道内の各地で暮らし、高校卒業後は、生き物について知りたいと帯広畜産大学に進学。その後、幼少期から興味のあったものづくりの道へと進む。大学卒業後は、国内外で現代美術作家の作品を制作し、大阪のデザイン集団「graf」では、現代美術作品の制作に加え、家具製作などを担当。一方、妻の佳子さんは、兵庫県西宮市出身。京都にて空間デザインを学び、神戸や大阪の「graf」で店舗や住宅のインテリアデザインを手がけた後、彫金を学んだ。

 

やがて、夕輝さんの生まれ故郷である北海道への思いが募り、十勝への移住を決めたふたり。これまでの経験を生かした家具作りを行うべく、家具製作と並行して工房を作ることから仕事をスタート。まず、大きな家具材を扱うために、柱のない広い工房を設計。古い牛舎を解体し、解体した木材やトタンは外壁材に。滑車を使って屋根の骨組みをするなど、自分たちの手で土台の上に少しずつ建物を組み上げていったという。着工から4年。ようやく完成したのが、牛舎の記憶を継承する現在の工房だ。

「ここに暮らすようになって、木が生き物に見えるようになった」

北海道は、家具の一大生産地として知られる旭川があり、多くの木材が世界中から集まる場所。ホンジュラス産マホガニーのテーブル、北米産ウォルナットの総無垢カップボード、そして極厚のウォルナット製カウンターなど、十勝に移住した当初は、稀少な輸入材をふんだんに使い、特大の家具を製作していたという夕輝さん。しかし、数年前から海外の木材を使うことに罪悪感を覚えるようになり、北海道産木材に材料を切り替えていくうちに、さらに大きな心境の変化が訪れたのだという。

 

日々、鹿追に暮らし、工房から眺める山と森。気がつけば、大阪にいた頃よりも、木がずっと身近な存在となっていた。目前に生えている木と、自分たちが材料として使う木が意識の中でつながった。木が生き物に見えるようになったのだ。

 

「小さな頃、木や森が身近だった頃を思い出しました。大人になった今、どうやって森と生きていくのがよいのだろう……と」。

 

以来、夕輝さんは製作に使う木の伐採方法を気にかけ、近所の農家で伐採された木や間伐材など、伐採せざるをえなかった木を材料とすることを考えるようになった。そして、家具のように大きな木材を使う作品だけではなく、余すことなく木を活かせるよう、小さな木材で作れるものを求めるようになっていく。

 

「家具製作の工程の中で、一番好きな作業はなんだろう?」。そう考えたときに、夕輝さんの頭に真っ先によぎったのは、テーブルの角を削ったり、細工を入れたりする「木を削る」ことだった。それなら、削ることで作れるものを作ろうと思い、もともと好きだった木彫りの熊を彫り始めた。これが思いのほか面白かった。

 

「好きなことを突きつめたら、削ることでした。刃物を動かしたときに伝わってくる木の抵抗感、塊だったものからカタチが現れるあの瞬間……。ふと気付いたら、こんなにも時間が経っていたのか、と驚くくらい熱中していました」

 

以来、家具製作のかたわら熊を彫るようになった夕輝さん。それは、移住してから5年ほど経った2017年の秋のことだった。

「最近は家でも二人で熊の話ばかりしています」

故郷への思いもあり、関西にいた頃から木彫り熊に惹かれていたという夕輝さん。近くの骨董市に通っては、売れずに片隅で佇む熊を見つけ、”家に連れて帰る”ように買い集めた。やがて自ら熊を彫り始めるようになると、その文化的背景への探究心が強まり、そのルーツを辿るべく発祥の地として知られる北海道八雲町を訪れた。八雲の熊彫りには100年近い歴史があり、冬場の厳しい生活を向上させるべく、農家の副業として推奨されたのが始まりだったという。夕輝さんが惹かれたのは、木彫り熊が単なる産業としてだけではなく、生活に芸術を取り入れる「農民芸術」の動きとして開花していったことだった。

 

八雲町の資料館では、かつての農民たちの集いの場を撮った写真も見つけた。その様子が、自分たちの暮らす地域の農家の集まりに似ているように夕輝さんは感じたという。書物から歴史を学び、八雲で熊を彫る人に話を聞くうちに、八雲の先人の姿が、今の自分と重った。

 

もちろん、鹿追での暮らしの中にも熊の気配はある。最寄りの目撃情報は、工房の北300メートル。夕輝さんにとって熊は怖いだけでなく、「かわいさ」を持った身近な存在でもある。それは八雲の熊に見出せる物語的な「かわいさ」に通じる感覚であり、彫る人の創造性が表出する木彫りの可能性を感じさせる部分でもある。ふたりの木彫り熊への興味は尽きず、このまま熊の話を続けたら止まらくなりそうだ。

熊も山も、身近な存在として彫る

次に夕輝さんが彫り始めたのは、山だった。雪の日高山脈をモチーフにした山の彫刻だ。きっかけは、「山の彫刻が欲しい」という佳子さんの一言。工房の窓から臨む日高山脈。熊を彫る方法で、山を彫ってみたいと思った。

 

工房で山を彫るところを見せてもらった。山も熊も同じく、丸太を輪切りにする作業から始まる。ギューコギューコという静かな音とともに、夕輝さんがノコギリを挽く。切り終わるまでには1時間。その断面のなめらかな美しさは、再び木の命がよみがえったかのようだった。オノを入れて山の大きさに切り出す。定規は使わず、人差し指2つ分がいつもの山の大きさ。窓越しに見る山のラインを木塊に鉛筆で写していく。定めた輪郭に合わせて斜面を削り、谷を削り、峰を際立たせ、山の独特な表情を作っていく。

 

「山を削るのは、どこか思いがけないように削れることもあり、自分の意志じゃない力が働いていると感じることがあるんです。それでも、自分の思い描く山にどう近づけていくか、日々四苦八苦しています」

 

人の力が及ばないと感じる、熊、山、木などの自然。だが、木彫りとして削り出されるその姿と形に、人の持つ力の魅力も感じると夕輝さんは言う。

地元で作られた道具とともに

工房には家具を作るために揃えた大きな木工機械が何台も置かれている。丸太を切るのにチェーンソーを使うこともできるが、夕輝さんはいつの間にか自然とノコギリを使うようになった。

 

「電動機械の音やスピード感が、木彫りでつくるものに合わない気がするんです」

 

木彫りに使う道具は、ノコギリやオノ、ノミなど、いわば原始的な道具だ。鹿追に暮らすようになって、町の人達から譲り受けた木槌や地元の鍛冶屋で作られたオノなど、古い道具も積極的に使っている。木彫りに使う作業台は、白樺の木をそのまま使った自作のもの。広い工房で作業に使う場所は、驚くほどわずかなスペースだ。

 

「この木の上で全部作業ができてしまうので、今となってはこんな広い工房も必要なかったんじゃないかって思います(笑)」

 

後編に続く

Profile

ペイジ

page

高野夕輝・高野佳子

それぞれ現代美術作品の制作や家具製作、店舗や住宅の空間設計などに携わり、2012年、大雪山国立公園の麓の町、鹿追町に移住。「page」を開業し、家具の受注製作、木の道具製作を行う。現在、熊や山などの木彫り制作と、指輪制作をメインに活動。木彫り熊、山の彫刻は、「MEMU EARTH HOTEL」のショップでも販売している。結婚指環は、サンプル確認後、サイズ、刻印を決めオーダー。

 

http://page-hd.com/

 

Profile

チーム ヤムヤム

Team YumYum

山本 学 ・ 山本えり奈

旅をしながら十勝に暮らす、編集・デザインチーム。あいうえお表やカレンダー、イラストマップやパッケージラベルなど、日々の楽しさをデザインする作品を手掛けている。北海道新聞にイラストエッセイ「ヤムヤム移住ごよみ」を連載。十勝毎日新聞社カレンダー「とかちごよみ」製作。Hotel Nupka「旅のはじまりのビール」ネーミング&デザイン。NHK連続テレビ小説「なつぞら」公式コラム執筆など。2019年6月には、2年目の「夏至のピクニックパーティ-育つ庭-」を主催。

 

www.tyy.co.jp

 

INTERVIEW & TEXT : TEAM YUM YUM
PHOTO: NAOKI WAGATSUMA

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